真野風凜のRock'n'Words

英日翻訳者の真野風凜が、洋楽と翻訳、言葉についてつづります。なお、著作権保護の観点から、歌詞・訳詞は一部のみを掲載します。

It's A Beautiful Day (Queen)―シンプルな歌詞ほど悩ましい

真野風凜のRock'n'Words、記念すべき訳詞第1回は、わが最愛のバンド、クイーン(Queen)の「イッツ・ア・ビューティフル・デイ」("It's A Beautiful Day")!

 

まず、クイーンについて簡単に紹介します。1971年にイギリスのロンドンで結成されたロックバンドで、メンバーはフレディ・マーキュリー(Freddie Mercury, vo)、ブライアン・メイBrian May, gt)、ジョン・ディーコン(John Deacon, bs)、ロジャー・テイラーRoger Taylor, d)の4人です。73年に「炎のロックンロール」("Keep Yourself Alive")でデビューし、「キラー・クイーン」("Killer Queen")、「ボヘミアン・ラプソディ」("Bohemian Rhapsody")、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」("We Will Rock You")、「伝説のチャンピオン」("We Are The Champions")など、ロック史に残る数々の名曲を生み出しました。華麗なサウンド、重厚なコーラス、観客の心をつかむ圧倒的なライヴ・パフォーマンス、そして、フレディの歌声やカリスマ性で一世を風靡しましたが、91年にフレディがエイズのため45歳の若さで他界。
しかし、クイーンの人気は衰えることを知りません。2018年にはフレディの半生を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットし、日本でも一大ブームになったことは記憶に新しいですね。

 

 今回紹介する「イッツ・ア・ビューティフル・デイ」は、クイーンの代表曲というほど有名な曲ではありません。しかし、今年春にはホンダ・フィットのCM曲に採用されたこともあり、一度は聞いたことがある方も多いのではないのではないでしょうか。
この曲はフレディが亡くなった後に発表されたアルバム『メイド・イン・ヘヴン』(Made In Heaven、1995年)の1曲目に収録されています。よく晴れた一日の始まりをイメージさせるさわやかなサウンドで、第1回にふさわしいと思い選曲しました。
曲は2分半ほどと短く、歌詞の英語も至ってシンプルです。でも、いざ訳そうとすると、特に2つ目のスタンザ(連)で悩みます。

It's a beautiful day
I feel good, I feel right
No one, no one's gonna stop me now, mama
素晴らしい日だ
気分もいい 調子もいい
もう誰も 誰も僕を止められないんだよ ママ

beautifulというと「美しい」という訳語がすぐに思い浮かびますが、「素晴らしい、見事な」という意味もあります。「beautiful day=美しい日」でも意味は通じますが、ここでは「素晴らしい日」と解釈しました。清々しく晴れ渡り、気分も明るくなるような、そんな一日がイメージできます。
続いてのフレーズはI feel good, I feel right。goodもrightも「良い」や「正しい」というポジティヴな意味があり、訳し分けに迷うこともあります。このfeel rightは「体調がいい、調子がいい」という意味の表現。原詞の"I feel"の繰り返しを再現するために、訳詞でも「気分もいい 調子もいい」と「もいい」を繰り返しています。
beautifulもgoodもrightも、英語の勉強を始めたころに覚えるようなとても基本的な単語です。でも、だからといって翻訳も簡単かというと、そんなことはまったくありません。たとえば、「feel goodってどんな気分かな? いい気分? すっきりした気分? それともウキウキする感じ? でも、あまり意訳しすぎて原詞から意味が離れてもいけないし……」なんて悩みだすと止まらなくなることも。こんなとき、私は自分の解釈は入れず、思い切って原詞どおりに訳すことを心掛けています。「なんだよ、芸がないな」と思うことなかれ! なぜなら、原詞を書いたアーティストは、refreshed(すっきりした)でもexcited(ウキウキした)でもなく、goodを選んだのであり、その言葉の選び方を日本語でも再現することが訳詞家の使命だからです。feel goodがどんな気分かを想像し、解釈するのはリスナーです。訳詞家の役割は、アーティストとリスナーのいわば「橋渡し」をすることだと思っています。


「イッツ・ア・ビューティフル・デイ」はフレディの死後発表されたということもあり、私は当初、3行目のno one's gonna stop me now(もう誰も僕を止められない)はフレディが自分に迫る死を暗示したフレーズなのかと思っていました。しかし、2011年にこの曲のデモが発表され、実際に録音されたのはフレディが亡くなる10年以上前の1980年だったことが明らかになりました。当時それを知って、「そうか、自分の死を歌ったわけじゃなかったんだ……」と安心したことを覚えています。ただ、どうして「誰を僕を止められない」のかは謎ですが。


Queen - It's A Beautiful Day (Official Lyric Video)